株式会社ワコム(6727)
開催日:2026年3月14日(土)
場 所:大和コンファレンスホール(東京都千代田区)
説明者:代表取締役社長 兼 CEO 井出 信孝 氏
1.事業概要〜ワコムがお届けする「体験の旅」〜
・ ワコムは創業43年の道具屋です。僕たちの道具がどこで使われているか。まずはゲームのキャラクターやデザイン、背景を作るのに使われています。大人気のCAPCOMのゲーム『ストリートファイター6』では、繊細な立体デザインを作っています。IZE(アイズ)のデザインも、3Dで作って、その上に色や光沢を乗せたりすることができます。
・ 漫画家さんの9割は、今デジタルで漫画を作っていますが、『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』の作者である丸山恭右さんもワコムの液晶タブレットを使用しています。また、実写アニメや映画では、光が飛び散ったり爆発したりする映像をVFX(Visual Effects、視覚効果)という技術を使ってコンピューター上で作り出していますが、そのVFXにもワコムの道具が使われています。VFXを担当している、世界で10本の指に入るようなアーティストVictorさんにもご利用いただいています。まるで写真のような絵を描くことができます。
・ プロの方だけでなく、絵を学びたい学生さんにも使われています。東京の聖学院高等学校では、授業の中で当社のペンとタブレットを使っていただいていますし、専門学校のHALでは、教室の至る所でワコムの液晶タブレットが使用されています。
・ ホテルのチェックインカウンターでも、宿帳を書くときに使われていますし、日本や韓国、インドの市役所では、マイナンバーカードの申請や戸籍謄本の請求を行う窓口などでワコムのタブレットが使われています。病院では、患者さんに病状の説明をするときにお医者さんが使っているのを見たことがある方もいると思います。
・ 最近は電子書籍が読める液晶タブレットにペンを付けることも多いです。また、文具メーカーとコラボして、本物の鉛筆や万年筆、ボールペンのように見えるデジタルペンも開発しました。ハイユニの鉛筆は木の軸はそのまま。木のにおいがしますが、先端にだけ電子部品を実装し、デジタルで使えるペンなのです。
【ワコムのコア技術】
・ いろいろな商品を作っていますが、技術は一つです。簡単にご説明すると、デジタルペンの技術として、磁力を使う電磁誘導方式(EMR)と、指タッチの技術を使ってペンを動かすアクティブ静電結合方式(AES)の二つ。そして、ペンから出てくるデータ(デジタルインク)の技術として、WILL TM SDKがあります。これは、誰が、どこで、いつ、これを使ったかといった精緻なデータをUIM(Universal Ink Module)フォーマットとして保存できるソフトウェアの技術です。この三つの技術を開発し、いろいろな使い方で展開しています。
【事業セグメント】
・ 事業は、まず「ブランド製品事業」と「テクノロジーソリューション事業(TS事業)」の大きく二つに分かれています。そして「デジタルインクサービス」が両方の事業を貫く形で共通展開しています。今はTS事業のほうが売上高は高く、2025年3月末の構成比で見ると全体の75%を占めています。
・ ブランド製品事業は完成品プロダクトをハードウェアとして販売する事業で、一般ユーザー向けからプロ向けまで幅広い製品を提供しています。今一番売れているのは2025年に発売した「Wacom MovinkPad」です。今までの商品はパソコンにつないで使うものが多かったのですが、こちらは持ち運びが自由で、軽い。かばんに入れて、いつでもどこでもすぐ描ける/書けるという商品です。こちらの事業は赤字が続いていましたが、事業構造改革を行い、今期から黒字化しています。「Wacom MovinkPad」も再成長をけん引しています。
・ TS事業は、「デジタルで描く/書く」という当社の技術を切り出してお客さまに提供するOEM事業です。有名なのはSamsungのGalaxyスマートフォンです。ペン(Sペン)が使えるスマートフォンとして、十何年ワコムの技術でお支えしています。パソコンであればLenovoやDell、HP、Acer、ASUS、FUJITSU、Dynabookなど、ペンが付いているものにはほとんど当社の技術が使われています。ワコムという名前は付いていませんが、日常の中に分からないぐらい溶け込んでいくような形で、多くのパソコンメーカーに採用いただいています。
2.中期経営計画
・ ワコム第4章として「Wacom Chapter 4」を運営しています。私たちは技術会社なので、中期経営計画の軸は、まず道具屋としてしっかり技術を磨いていくこと。二つ目は、1社で何かをするのではなく、志を同じくする集団の中でコミュニティと共に生きて、新しい体験をつくっていくこと。三つ目は、当社のペンはいろいろな使われ方があるので、お客さまと一緒に使用事例を作りながら事業を展開していくということ(ユースケースごとの価値提供)。四つ目は、持続可能で意味深い成長を探求することです。
・ コミュニティと共に生きる事例として、2025年に札幌市の小学校で出前授業が採択されました。小学校の頃からクリエイティブの学びを受けていただきたいという思いで、私たちが授業を開発し、昨年から取り組んでいます。
・ ペンはいろいろな使い方ができますが、ユースケース(使用実例、使用用途)は「創る」「学ぶ/教える」「働く/楽しむ その先へ」「より人間らしく生きる」の四つの分野に集中し、事業に取り組んでいきます。
・ 「創る」では、描く/書くことに特化した体験をつくっていく。ハードウェアだけでなく、クリエイターの著作権を保護する仕組みをつくっています。クリエイターが描いた絵の下に、人間の目には見えない小さなマークを作り、そのマークがブロックチェーンとつながって、誰が、いつ、どこでこの絵を描いたのか、この絵は確かに自分のものだということが証明できるサービスを展開しています。
・ 教育の現場では、ベネッセコーポレーションの展開する通信教育サービス「進研ゼミ」で、全コースでワコムのペンとタブレットを採用いただいています。
Z会の通信教育では、紙がデジタルに切り替わり、当社のペンを使っていただいています。問題に対して生徒さんが答えを記入すると、正誤だけでなく、後で振り返りができるように、どんなふうに書いたかという記録が残ります。ちょっと自信がない箇所、悩んだ箇所を筆跡の変化で捉えることができ、復習したほうがいい箇所が分かる。問題を解いていて分からない単語が出てくると、その答えについて辞書的な情報を提示するだけでなく、関連情報も提示する。生徒さん一人一人の筆跡データを捉えて、興味を刺激する「知恵の輪」が出来上がっていきます。この対価は生徒さんの月謝から頂いており、サブスクリプションビジネスの先駆けともなっています。
勉強して答えを書くと、書いた量が歩いた距離に変換されて、ゲーム化されることで勉強の意欲を高めるようなサービスもあります。
・ 高級万年筆メーカーのMontBlancとも共同開発をし、MontBlancの万年筆をデジタル化するなどしています。
・ 認知症や老齢化社会といった社会課題についても、われわれのペンでソリューションを開発しています。例えば認知症の診断は、時計や立方体を書いてもらうなどして行われていますが、ワコムの技術でやると、形を把握するだけでなく、描くときにどこで迷ったか、どこで線が震えたか、どこで線がずれたかなど、描く過程を全て捉えることができます。その情報を使って未病を捉えていけるようなサービスを事業化しようとしています。
・ 各事業は、開発したら一度市場に展開し、事業化(マネタイズ)して、市場展開するという流れで、皆さんにアップデートしていきます。
・ 今後は、「ブランド製品事業」「TS事業」のほかに、多様な用途に技術を展開していく「プラットフォーム」という三つ目の事業セグメントを設け、お客さまにお届けします。
・ Wacom Chapter 4の目標は、企業価値を向上させていくことです。2028年度までの財務目標は、売上1,500億円、営業利益150億円です。資本効率も意識します。ROE、ROICは現状それぞれ6%、16.3%と決して低くはありませんが、ROEは20%以上、ROICは18%以上を目指します。成長に向けた投資も行います。株主様への還元は、総還元性向50%以上を目指します。自己株式の取得と組み合わせ、累進配当制度も導入しながら事業運営を行っていきます。
・ 技術会社として将来の成長につながるR&Dを行い、新たな技術を買ったり技術会社と提携したりすることに投資することを資本政策としています。技術投資の一例として、手術現場でVRのゴーグルを装着し、患者さんのおなかを切る前に3D仮想空間で手術を練習することができるという技術にも投資しています。
【FY2025 第3四半期 決算のポイント】
・ 中期経営計画1年目である2025年度は、しっかり歩を進めることができました。決算の結果は今年1月末に発表しています。通期業績は営業利益の当初予想115億円を上方修正し130億円で着地、ブランド製品事業は通年で売上前年比+10%増となり、黒字化が安定しました。
・ 新方式ペン技術、USM(Universal Sensor Module)技術についても発表しました。今まではディスプレイの下にペン専用のセンサーを敷かなければならず、このセンサーが高価で商品を分厚くしたり重くしたりする原因になっていたのですが、このセンサーがなくても使える画期的なペンを開発しました。今、事業化に向けて取り組んでいるところです。今後は、EMR(Electro Magnetic Resonance)というペンに特化した技術と、指タッチのAES(Active Electro Static)、空間の上に描いていくVR Penという三つの既存の技術と共に、それぞれの特性を生かしながら継続的な技術進化を図ります。
・ 2026年2月、アニメ界のアカデミー賞とも言われる第53回アニー賞で、日本企業初としてアブ・アイワークス賞(Ub Iwerks Award)を受賞しました。何か特定の作品を作ったということではなく、クリエーション、アートのコミュニティに対して長年にわたり貢献してきたことを認めていただきました。ハリウッドの授賞式に出席し、ご挨拶をしてきました。受賞記念として、ワコムを信頼して支え続けてくださった株主の皆様に受賞記念配当3円とご報告しています。
・ 当社の取り組みについては、YouTubeで配信を始めました。私たちがやっていることを詳しく、かつ面白くお伝えしていきたいと思っているので、ぜひご覧ください。IR専用のYouTubeチャンネルです。
3.質疑応答
Q1.中国勢が御社の数分の1の価格で類似製品を出しています。今後、利益率の低下は避けられないのではないでしょうか。
A1.市場に中国の競合他社の商品は確かにあります。ワコムより安くという位置づけを狙っているようですが、僕たちは数千円のレベルで安さを競うのではなく、本質的に絵を学んでいただく、楽しんでいただくという、お客さまに満足いただける体験を提供することで戦っていきたいというのが基盤としてあります。使っていただくと分かりますが、本当に違います。紙とペンの書き心地を追求していくことは、特許を持った当社独自の技術をもって対抗していきます。
僕たちのペンとタブレットを使ってどんなことができるか。作品の著作権を守る、離れた場所で作業ができるリモートワークのサービスなど、全く新しい価値を提供できます。その事業展開が中国の競合他社と差別化できる部分だと思います。
絵を描くというのはすごくワクワクすることです。一般の方にとっては特別なことかもしれませんが、プロの漫画家や、アニメや映画を制作する方、服や靴などのデザインをする方は、皆さん「本物が欲しい」ということで当社の製品を手に取ってくださる。そのシェアは圧倒的です。プロの体験をなるべく手に取りやすい価格に仕上げて提供することも大事だと思っていて、それが6〜7万円で買える11インチの「Wacom MovinkPad」となっています。
Q2.生成AIの普及はクリエイターのデジタルペン需要にどう影響しますか。独自のAIツール活用などでどう差別化しますか。
A2.AIの話はとても重要です。今日この瞬間、クリエイターの方はAIをどのように使うか悩まれていますし、さまざまな実験をしている途中だと思います。何か一つに方向が定まったという議論ではありません。ただ、「手ずから何かを作り出す」という行為は人間にとってすごく大事な行為なので、ワコムは大切にしています。その上で、どうやってより便利にものを作っていくか。AIを使いこなしてでも次の進化を遂げるかというところは、デジタルの道具屋としてお支えしたいと思っています。
AIの議論は、キーボードで「こんな絵を作って」と指示すると簡単にきれいな絵が作れるといった生成AIの話に引っ張られがちですが、クリエイターが手ずから作った作品をさらに良くしていくためにどう使うかという議論が始まっています。ワコムでは、1枚約3〜4万本の線で出来上がっている作品の筆跡を解析するのにAIを使っていて、その作家さんしか持っていない描き方の特徴を取り出しています。指紋ならぬ、絵紋です。AIは、クリエイターを助けることにも使うことができる。学ぶ人、教える人、働く人のペンの使い方を多面的に支援していく形でAIに向き合っています。
Q3.Windows OS、Android OSに対応していますが、将来Appleの牙城を崩すときが来ると期待してもいいでしょうか。
A3.お答えが難しいですが、一番興味があると思います。今、既存のOSを超えたオープンソースの世界が広がっていますが、私たちはここに着目していて、LinuxやBlenderに対応する技術を開発しています。アメリカの大手アニメーションスタジオも、自分の作品を管理するシステムはLinuxで作っています。Linux上で当社商品がちゃんと動くよう技術開発をして、お客さまを支えています。
今後はOSという考え方ではないプラットフォームが出てくることを前提にしながら、こちらの質問についてはお答えできません、ということになってしまうのですが、Appleのシステムに入るということはApple専用になるというリスクがあるので、それよりは、無限の可能性を追求して市場を広げようという戦略を取っています。
Q4.デジタルペンが進歩しても、いまだ実際のペンや鉛筆には勝てない部分はありますか。
A4.いくつかあります。まず、アナログのペンと紙のすごいところは、場所を選ばずどこでも書けることです。書き心地はまだまだかないません。鉛筆は、芯(黒鉛)が紙の繊維に絡みついてボロボロとこぼれ落ちていくことで線が書けるのですが、芯が壊れていく感触に対して人は「書き心地がいいな」と感じます。当社のタブレットも見た目はツルツルの液晶に見えますが、実は細かいざぐりが入っています。そのざぐりの上をペンが通ると、ペンの繊維質がそれに引っかかって、書き心地がいいなと感じる。ミクロの世界でそういった再現を追求していますが、アナログのペンと紙は永遠のライバルであり、先生だと思っています。
Q5.社員の人事施策について、かなり先進的な取り組みをされており、社員の自由度が大きいと感じました。給与の不正受給など、労務管理上の問題は発生していないのでしょうか。
A5.労務管理上のリスクはあると思いますが、ワコムはチームメンバーとして信頼し合える働き方をしています。年齢や序列に関係なく、「やりたい」という志がある人に活躍してもらう環境を整えていくことが大事だと思っています。
ただ、ご質問のように、ご心配いただくことに対してはしっかりお知らせしなければいけません。今夏までにはホームページをアップデートし、ワコムに勤めているチームメンバーが会社をどう思っているか、どういう信頼を持っているか、会社はチームメンバーとどういう信頼を築いているかということをデータとしてご提示します。株主の皆さまに安心していただけるようなコミュニケーションを図っていきます。
以上
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