フクビ化学工業株式会社(7871)
開催日:2025年8月25日(月)
説明者:代表取締役社長執行役員COO 森 克則 氏
1.会社概要
・ 福井県福井市に本社を置く創立72周年の会社です。多彩な樹脂の配合・成形・加工技術を有する開発型のメーカーです。祖業である建築資材の製造販売をはじめとして、精密加工品を含む産業資材分野にも事業を広げています。主要技術としては、複雑な断面形状を持つ製品を成形する「異形押出成形技術」や、独自開発したコーティング液を用いたアンチリフレクションという反射防止コーティング技術などを有しています。
・ 直近決算期の連結売上高は約400億円、東証スタンダード、名証メイン市場に上場しています。グループ全体として、全国に営業拠点19カ所、工場6カ所に加え、国内子会社4社を展開しています。海外においては、タイ、ベトナム、アメリカに拠点を構えています。
・ 当社は、四つの事業をレポーティングセグメントとして開示しています。一つ目は建材事業です。主なマーケットとしては、新築戸建てをはじめとする住宅向け、直近ではマンションのリフォーム用途が大変伸びています。オフィス、工場、商業施設、文教施設といった非住宅分野も新たなマーケットとして拡大しています。
・ 二つ目のCSE事業では、特定ユーザーのご要望に合うような商品を受託、製造しています。主に住設関係、バスやトラックのようなモビリティ分野などに商品を供給しています。
・ 三つ目は精密事業です。主な商品は反射防止樹脂シートで、自動車のメーターパネルをはじめ、医療用のモニターやカメラのレンズカバーなどにも用途を展開し、今後の大きい伸長が期待される分野です。
・ 四つ目はグローバル事業です。ASEAN地域では、日本と同じように高齢化が進むタイなどで、高齢化社会向けの新しい商品の販売などを担っていきます。また、アメリカのマーケットをさらに大きなポテンシャルとして捉えて、日系の大手ハウスビルダー様の進出が進む中で、建材サプライヤーのTier1ポジションを確立すべく、大きな挑戦をしていきたいと考えています。
2.2025年3月期連結決算
・ 2025年3月期の売上高については、断熱関連製品や住宅関連分野以外の伸長等により増収となりました。利益面においては収益性のさらなる強化と財務健全化の観点から、第2四半期より棚卸資産の再評価による適正化を進めた影響で、一過性の費用計上が発生し、減益となりました。
- 株主還元については、自己株取得による総還元性向の向上等に取り組んだことによって、配当金26円、総還元性向は52.8%、配当利回りは3.2%の期末実績となっています。
- 2026年3月期の業績については増収、増益を見込んでおり、年間配当金についても前期からの増配を予想しています。
3.企業価値向上への取り組み
・ 当社の企業価値向上への取り組みについてご紹介します。現在、2023年度よりスタートした5カ年の第7次中期経営計画の下、「循環型ビジネス拡大」、「強靱な収益基盤構築」、「成長を後押しする組織づくり」という三つの基本戦略を軸に、持続的な成長に向けた取り組みを進めています。中期経営計画の最終年度である2027年度にはROIC 5.9%、ROE 6.0%以上、売上高450億円、営業利益28億円という目標を掲げています。
- 本年3月には、「企業価値向上2030〜資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて〜」を公表しました。「企業価値向上2030」では、中期経営計画のさらに先の成長イメージとして、2030年度での売上高500億円、営業利益35億円、ROIC 7.0%以上、ROE 8.0%以上の目標設定と、その達成に向けた2030年までの成長構想を策定しています。
- この成長構想では、どの分野、どのセグメントで売上高を稼いでいくかを明確にしました。具体的には、当社の強みを生かせる四つの事業領域、八つの成長牽引分野に注力し、新たな成長機会を創出することで持続的な成長を目指します。本構想の実現に向けて、研究開発やM&Aなどの積極的な投資による成長領域の拡大を図るとともに、既存事業においても生産性の向上やコスト削減など、収益力の強化に取り組みます。
- 成長牽引分野としての「新たな住まい」においては、高性能断熱材による当社のポジションを確立し、新築住宅だけではなく、リフォームや非住宅分野へも展開し、「オフィス&ファクトリー」では、商業施設、食品工場、文教施設などの市場開拓を推進します。「モビリティ」ではコーティング技術を活用し、車両のディスプレイでの成長を、「インフラ」では海底ケーブルや、まちづくりにおけるパブリックファニチャー分野での拡販を進めていきます。数値目標は単なる願望ではなく、市場動向の分析と当社の競争優位性を踏まえた実現可能、かつ戦略的な目標として設定したものであり、2030年度ROE目標達成への道筋を具現化するものです。同時に投資家の皆様に対する表明でもあり、これらの目標達成に向け、経営資源の最適配分と迅速な意思決定を推進していきます。
- 当構想では、中期経営計画で定めた「新たな住まい」、「オフィス&ファクトリー」、「モビリティ」、「インフラ」という四つの事業領域をさらに深掘りし、新たに八つの成長牽引分野を設定しました。成長牽引分野の売上高目標は中計最終年度となる2027年度では、現在の約2倍の240億円、2030年度では290億円を目指します。
4.成長牽引分野別の取り組み例
- 成長牽引分野別の具体的取り組み例と今後の戦略について説明します。戸建て住宅の断熱対策についてはある程度認知、普及してきた中で、既存のマンションや非住宅建築物の断熱対策には進展する余地が大いにあります。「神戸一番館」というマンションの事例では、コンクリートの躯体に高性能断熱材『フェノバボード』を天井、壁、床に直接後張りして、断熱性能を付与しました。マンションオーナー様、ビルダー様等に直接足を運んでいただき、断熱マンションを体験、見学いただける場所となっています。今後の展開としては、部材販売にとどまらず、高い施工品質を通じたトータル断熱ソリューションを提供すべく、社内工事部隊と断熱材販売部隊を再編することも検討中であり、一層の機能強化に注力してまいります。
- 中期経営計画では5年間の成長投資枠として、105億円を設定しています。その中で最も大きな金額を占める新工場への投資については、成長構想を軸にフクビグループ全体での投資優先順位を精査し、最適生産アロケーションを検討しています。第1期工事としては、2027年度中の竣工、稼働開始を想定した断熱材の生産拠点拡大を目指しています。
- 次に、食品工場や厨房など、衛生環境に注意を要する施設向けの商材、「プランツール」の施工事例として、香川県のわらび餅で有名な「かねすえ」様の事例を紹介します。もともと倉庫だった建屋を工場に改修しました。天井の結露滴下による食品事故の抑制に貢献する軽量断熱パネル、撥油タイプの壁材、壁と床の隙間に水がしみ込むことを防ぐ幅木材をトータルに提案し、快適な衛生環境の空間づくりに寄与しました。
- また、木材資源の環境活用の観点から、利用されない間伐材を用いる再生木『プラスッド』を展開しておりますが、これまで以上に化学と自然素材の融合を目指し、今年4月には隈研吾設計事務所様にデザイン監修をいただき、本物の木と同じようなテクスチャーを表現した高意匠の再生木デッキをリリースしました。耐久性付与とともに、炭素の固定を実現しながら森林循環へも貢献する取り組みとなっており、環境対応と経済的成長を両立する取り組みとして、引き続き注力してまいります。
- また、現状、日本国内での売上比率が約9割を占める中で、海外市場の成長需要を着実に取り込み、海外での売上比率を伸ばしていきます。特に既に弊社拠点のあるタイ、ベトナムを中心としたASEAN地域においては、高齢化に伴う新たな需要を着実に取り込むものづくりを目指します。
- 米国においては、日系ハウスメーカー様の進出により、今後大きな成長が見込まれる住宅産業需要を取り込むために、M&Aによる同業者の買収検討を含めてアクションを加速させています。トランプ関税対策や為替対策の観点からも、必要部材の米国内調達が加速することは必至であり、弊社としては、ぜひとも建材サプライヤーのTier1、またはTier1.5の立ち位置構築を目指して、グローバル経営基盤の強化を進めていきます。初期のマーケティングの結果としては、養生剤が一つの狙い目となっており、その分野を足掛かりとした部材のマーケティング活動を実施し、現地製造体制の確立を進めていきます。
- モビリティを中心としたレンズカバー、車載ディスプレイといった分野では、透明プラスチック基板に特殊なコーティングを施すことで反射光を抑え、自動車のメーター等がくっきり見えるようになる『ハーツラスAR』という商品の国内外自動車メーカーでの採用が進んでいます。また、LED光源の光を自在に折り曲げながら伝達する導光棒の『光ガイディングバー』は自動車内装のイルミネーションやインジケーターとしての採用、検討が順調に進捗しています。
- 海底ケーブル、土木・まちづくりの分野では洋上風力発電に使用される海底ケーブルのケーブリングスペーサーの製造販売に注力しています。長期的な展望にはなりますが、継続して拡販を進めていきます。
5.業績推移と株主還元
・ 2026年3月期第1四半期連結業績と株主様還元について説明します。住宅関連では断熱などをテーマにリフォーム分野の強化を図りつつ、非住宅分野では将来の成長につながる新たな事業領域の拡大に注力しました。また、原価低減や価格改定の取り組みによって、売上高、営業利益、経常利益ともに前年同期比を上回りました。一方で、一時的な税金費用の増加等による影響で、四半期純利益は前年同期比で減益となりました。
- 第1四半期の業績はおおむね想定に沿う結果であったことを踏まえて、通期計画では増収・増益の連結業績予想を据え置いております。引き続き社員一同、計画の達成に向け尽力してまいります。
- 配当については、前期末より株主還元方針に導入した累進配当に基づき、第1四半期の決算発表において配当予想の修正を行い、今期は年間配当金27円の予想です。引き続き、機動的な自社株式取得による総還元性向の向上といった資本政策も含めて、株主様への還元の充実を図ってまいります。
- 「企業価値向上2030」では、2030年までの成長を見据えた新たな5カ年のキャピタルアロケーションを策定しています。具体的には現預金、営業キャッシュフロー、借入金を主な原資とし、105億円の成長領域への投資による持続的な成長を実現するとともに、株主の皆様への利益還元を強化するため、株主還元にも45億円の資金を投入していきます。
- 中期経営計画3年目の今期は、計画達成に向け、既存事業の着実な推進と重点事業領域の成長を両立させ、これまで以上に成果を出すことが重要と考えています。
- 中期経営計画、企業価値向上などの取り組み内容の詳細については、当社Webサイトに関連資料を開示しておりますので、ご参照ください。
6.質疑応答
Q1.「異形押出成形技術」の特徴を教えてください。また、この技術が使われた製品は、われわれの生活の中のどんなところで目にすることができますか。
A1.金型から樹脂を押し出して、非常に複雑な断面形状を持つ物を連続的に長手方向に生産する技術です。例えば天井と壁の隙間を埋める見切り材や、床と壁の間の幅木材は、かなりの確度で皆さまの住宅や商業施設等で使われています。また、浴室など水回りでは、親水性のコーティングすることで結露を防止し、天井から水がポタポタ落ちないような天井材を採用いただくなど、現時点で商品の数は9,000を超えており、住宅の中の必ずどこかでご覧いただける状況となっています。
Q2.現在の株価水準について、どのような認識を持っていますか。また、今後どれぐらい伸ばしていきたいと考えていますか。
A2.最近、株価は少し回復していますが、それでもPBRは0.5に満たない状態で、株主様にとっても、私どもにとっても満足できる水準ではないと認識しています。利益をしっかり上げていくこと、それから株主の方からお預かりしているお金を賢く使って、それをリターンに還元していくかというところをより強化していきたいと考えます。最終的にPBR1を目指したいと考えています。
Q3.株主優待制度の計画はありますか。
A3.よくいただく質問ですが、弊社は株主優待には向かない商品が多いので、株主優待というよりも配当と総還元性向、TSRで皆様に満遍なく還元することを優先してやっていきたいと思います。今年度からの累進配当の導入も、その延長です。
Q4.アメリカに生産拠点があるようですが、トランプ関税の影響の有無について教えてください。
A4.オハイオ州に「FUKUVI USA, INC.」という製造拠点を有しており、来年で30周年となります。第1期トランプ政権のときも保護主義的な動きがあり、域内で減量を調達し、製品を製造するという立場の優位性は発揮されました。今回、それほど強い追い風ではありませんが、間違いなくフォローウインドにはなると思っています。また、日系のハウスビルダー様がアメリカの同業者を買収し、進出される中で、今はかなり特徴のある部材を日本から持っていっていますが、当然現地で造り、現地で調達するという流れになります。その際に現地の生産拠点と人材をしっかり活用し、米国において、より深いところでの建材の製造販売ができるように図っていきたいと考えています。
Q5.自然災害の被害が年々ひどくなる傾向が強まっていますが、住宅向けの建材事業の開発にも見直しなどの変化はありますか。
A5.最近は地震など、いろいろな自然災害が頻発していますが、少しでも安全な住宅に寄与するような建材を造っていくことは建材メーカーとしての使命であると思っています。これまでも耐震補強用の部材など、いろいろな建材をマーケットに出していますが、まだニーズに応え切れていないので、その辺のR&Dをより加速させていきたいと思っています。地球温暖化等で、ここ数年の気温も大きく変わってきている中で、住宅もそうですし、特に学校の断熱性を高めるという需要が増しています。災害時の避難所としての体育館も住環境としては非常に過酷であるという報告が多数なされています。弊社でも断熱材を素材として販売するだけでなく、天井材や樹脂製の二重窓といった商品などを組み合わせ、かつ自社の工事部隊も積極的に関与することで、施工品質も含めていい物をお届けしたいと思っています。
Q6.貴社が他の企業よりも優位になっているものを教えてください。
A6.従来は環境対応が必ずしも収益に直結しなかったと思いますが、最近は状況も大きく変わりました。『プラスッド』という製品は、リサイクルされた樹脂と間伐材をチップにし、粉にして、それを混ぜ合わせた再生木です。それでデッキ材などを作ると、自然木と比べて耐久性があり、10年使っても変色しません。このようなデッキ材やルーバー材、屋外の家具等に使われる部材は他社に負けないという自信を持っています。また、『フェノバボード』という断熱材も、業界トップの0.019W/m・Kと最高性能の断熱性能を有するものです。断熱性が1割高いと厚みを1割削減できるので、内張り、後張りの場合、非常に制約のあるスペースでは、干渉することなく高い断熱性能が発揮できます。これからより本格化すると思われる住宅やマンションのリノベーション、文教施設等の断熱工事にしっかり訴求できるような体制を整備していきたいと思っています。
Q7.東証からPBR1倍割れの状況について改善要請が出ていると思いますが、そもそも会社としてPBR1倍を達成しなければならないと考えていますか。
A7.もちろんイエスです。しっかりとした事業をし、その結果として純資産も積み上がってきている中で、でもそれをご評価いただけないというのは内向きにいろいろな問題を抱えているのだろうと反省し、その改善に努めていこうと思っております。弊社は自己資本比率も高めですが、それは必ずしもいいことではなく、お預かりしたお金を生かしているかという点で、全く期待に沿っていないところだろう思います。ROEも含め、資金効率を上げ、結果としてPBR1に近づくことになると思っていますので、それを目指して邁進してまいります。
Q8.御社はグローバル売上が8.0%前後ですが、これからさらに海外展開を進める予定はありますか。また、そのための課題は何ですか。
A8.将来的には海外の成長を自社の成長としてしっかりと取り込んでいくということで、10年ぐらい先には海外比率2割を目指します。そのときの売上高は、今の400億ではなく、550億プラスを想定しておりますので、海外で100億以上の売上を達成し、収益に結び付けたいと思っています。一方、国内では新築戸建て住宅の着工が80万戸レベルに落ちており、これが回復するシナリオはほとんどないと思っていますが、新築以外のマンションのリフォームや商業施設、文教施設、病院や介護系の施設などは決して縮小しているわけではありません。そういったニーズをしっかり把握し、それに適した商品をマーケットに提供することで、新築住宅の落ち込み部分は十分カバーできると思っています。確かに、既存の領域は縮小やむなしという面はありますが、同じ建築分野でも、「オフィス&ファクトリー」も含め、新築住宅ではないところでのシェアを上げ、商品のポートフォリオの組み替えを加速していきたいと考えています。
以上
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