日東紡績株式会社(3110)
開催日:2025年2月23日(日)
場 所:大和コンファレンスホール(東京都千代田区)
説明者:取締役 代表執行役社長 多田 弘行 氏
上席執行役 梶川 浩希 氏
はじめに
・ 私、代表執行役社長の自己紹介をします。1985年に入社し、来月で40年を迎えます。兵庫県加古川市で生まれ育ち、神戸の高校に通い、大学時代は京都で下宿していました。入社当時は福島に本社、東京に本部がありましたが、私は大阪に配属されました。当時、大阪には繊維の本部があり、私はその営業部門に所属しました。そこに17年間勤めた後、香港に2年間転勤し、再び大阪に戻ってきて、合計20年間大阪で繊維の営業の仕事をしました。2005年に初めて東京に異動してからは、資材調達や経営企画に携わりました。2013年に大阪支店長として再び大阪に戻りましたが、2016年に東京に戻り、2017年4月1日に役員に就任しました。その後、2020年に常務、2023年に専務となり、その間に繊維とグラスファイバーの部門長、企画管理本部の本部長を務めました。そして昨年4月1日に、約10年ぶりのプロパーの社長として就任しました。
1.当社グループの概要
・ 当社は1923年4月に福島県で設立され、創設から102年がたちます。当社は少し変わった成り立ちをしています。通常の紡績会社は、創業者が自分の紡績工場を始めて、それを大きくすることで会社を成長させていくことが多いです。しかし当社は、福島県にあった二つの絹紡績会社を、絹で有名な片倉家が買収した合併会社からスタートしました。その後、会社を拡大する際も、新潟県、和歌山県、富山県などで地場の紡績会社を買収することで大きくしたという意味でも、ユニークな会社です。
・ 昨年度の売上高は933億円、営業利益は84億円でした。資本金の196億円は変わっていません。従業員数は2,700名弱です。
・ 経営理念は「日東紡グループは『健康・快適な生活文化を創造する』企業集団として社会的存在価値を高め、豊かな社会の実現に貢献し続けます」です。その中で、約20年前に「日東紡宣言」をつくりました。キーワードは「日東紡でよかった」です。投資家や従業員、顧客、仕入れ先、地域社会、行政といったステークホルダーの皆さんに「日東紡でよかった」と思っていただける企業であろうという思いで、社員一同、日々活動しています。
・ 5年前に、2030年にありたい姿『Big VISION 2030』という長期ビジョンを策定しました。当社は決して大きな会社ではなく、大きくなることを目指していません。ニッチな分野で高収益を上げる会社を目標としています。キーワードは「グローバル・ニッチ No.1」であり、製品開発で独自のポジションを築き、グローバルな顧客に深く根ざすことを定義しました。世界中に生産拠点を持つのではなく、顧客を世界に求め、それに深く根ざし、高く評価される商品を作るのが当社のポリシーです。
・ 昨年度の売上高933億円のうち、電子材料が299億円、メディカルが128億円、複合材事業が127億円、資材・ケミカル91億円、断熱材が148億円と、どちらかというと電子材料事業の売上が多いです。利益はかなり偏っており、利益84億円のうち54億円が電子材料、メディカルが24億円と、この二つの事業でほとんどの利益を出しています。
・ 電子材料事業は当社の成長ドライバーであり、売上も利益も一番大きい事業です。当社はもともと紡績業から始まり、「なんでも繊維にしてみよう」ということでガラス繊維、ロックファイバー、グラスウールなど、戦前からさまざまな事業に多角化してきました。
・ その中でも一番大きく花開いている商品がグラスファイバー、特にスペシャルガラスです。その中の1つは低誘電ガラスで、主な用途はプリント配線基板の基板材です。当社のガラスクロスに樹脂を含浸させ、その上にチップを載せて、コンピュータなどの基板が作られています。なぜこれが当社の成長ドライバーとなっているかというと、性能が現代のニーズに合致しているからです。現在、AIや5Gの世界では、極めて高速で大容量の通信が求められています。高速で大容量になればなるほど、伝送ロスが許されません。当社が持つ低誘電ガラスというソリューションにより、伝送ロスが少ない基板の製造が可能になります。
・ もう一つ大きく伸びている商品が、低熱膨張ガラスです。例えばAIのデータセンターは非常に多くのデータ量を扱い、通信量も多いため、膨大な電力を消費します。これにより電子レンジ並みに熱くなるリスクがあり、基板に歪みや膨張が発生する可能性があります。この問題を解決する素材が、当社のスペシャルガラスです。低熱膨張ガラスを用いることで、歪みのない、膨張しない基板を作成できます。
・ これら二つの商品は、現在、電子材料用途で大きな需要があり、当社の前中期経営計画期間で400億円を投資しましたが、そのほとんどはこの用途です。現在の中期経営計画期間においては800億円を投資する予定ですが、そのほとんどもこれらの用途に向けられています。さまざまな事業を展開していますが、現時点では電子材料の会社としての立ち位置を強化しています。
・ メディカル事業については、なぜ当社が行っているのかとよく質問されますが、私が入社して2年目から始めた事業で、既に40年近く続いています。当社は体外診断薬を提供しています。人間ドックなどで血液を採取し、病気のリスクを測る際、その項目の一部は当社製品が担っています。これは非常に安定した事業で、浮き沈みが少ないです。電子材料事業にはシリコンサイクルがあるため利益に波がありますが、診断薬事業は人口動態に合わせて安定した成長を続けており、特に少子高齢化社会において需要が増加しています。コロナ禍で一度だけ利益が落ち込みましたが、それ以外は三十数年、毎年少しずつ成長しています。
・ 当社のメディカル事業の特徴は、グローバル・バリューチェーンの構築にあります。最終製品である診断薬の製造・販売だけでなく、原料の生産から手がけるというユニークなビジネスモデルです。診断薬の原料となる抗血清の生産はアメリカで行い、以降の開発・製造・販売は日本で行っています。また、多くの診断薬メーカーは原料部門を持たないため、原料のみを販売するビジネスも行っています。この一貫バリューチェーンが、診断薬業界で当社が高い収益率を維持する要因となっています。
・ 次は複合材事業です。牽引している商品もグラスファイバーですが、電子材料事業の製品とは用途が異なり、車のバンパーやバスタブ、歪みが許されないスマートフォンの筐体部分など、熱と強度に強いプラスチックが求められる分野において、FRPなどのプラスチック複合材に用いられています。戦前から最も長く続いている事業の一つですが、残念ながら営業利益は9億円の赤字です。大きな修繕工事などの一過性の要因もありましたが、今後はしっかりと収益改善を進めていきます。
・ 現在力を入れているのは、フィラメント断面が扁平なグラスファイバーの製造です。溶かしたガラスの断面は丸くなるのが常識でしたが、当社は扁平のグラスファイバーの製造に成功しました。この新技術により、複合材用途での強度向上に大いに貢献しています。今、市場に対して積極的に訴求しているところです。
・ 資材・ケミカル事業は、売上高が91億円と当社の中では最小ながら、営業利益は8億円と安定した収益を上げています。主力商品は建築資材などの産業用グラスファイバーで、東京ドームの屋根や、ホテルの日よけシェードもグラスファイバーでできています。大阪万博でも、当社製品が使われた膜材による建築物が建てられる予定です。また、この事業では高分子の機能性ポリマー事業も手がけています。創業以来続く繊維事業として唯一残っているのが接着芯地で、婦人服に用いられる非常に軽い超極薄ポリエステル芯地を製造しています。
・ 断熱材事業ではグラスウールを扱っています。ガラスを綿状にして建物の壁の中に入れることで、断熱機能を持たせる商品です。これまでは寒冷地である北海道や東北が大きな市場でしたが、今後は関西以西での需要拡大が見込まれています。これは、気候変動に伴い、暖気を外に逃がさない用途から冷気を外に逃がさない用途への需要が高まっているためです。国土交通省から新しい基準が示されるなど、政府主導でも断熱性能を持つ住宅が推進されています。さらに、この断熱材の原料はほとんどがリンや板ガラス廃材といったリサイクル品で、リサイクルという社会的要望に応える事業でもあります。今後もさらに注力していく考えです。
2.中期経営計画(2024−2027年度)
・ 中期経営計画には二つのポイントがあります。一つ目は、前の中期経営計画で投資した400億円の成果を刈り取ることです。AIや高速大容量通信などの世界が広がりを見せる中で、収益を確実に取り込みつつ、投資の手を緩めずに成長サイクルを維持することがスペシャルガラス、電子材料の分野では必要だと考えています。
・ 二つ目は、新たな柱づくりです。次の100年に向けて新しい事業を見出すため、今回、大きな組織改編を行いました。これまでは、グラスファイバー・メディカル・繊維など、製品別の事業部門に分かれていましたが、4月からは市場に対応した組織とすべく、電子材料事業本部、メディカル事業本部、複合材事業本部、資材・ケミカル事業本部などに改編しました。また、研究開発をそれぞれの事業本部に置くことにより、顧客のニーズに迅速に対応できる体制を整えました。今後もスピード感を持って新たな柱を作り上げていく考えです。
・ 次は定量目標についてです。これまでは3年ごとに中期経営計画を作成してきましたが、今回は4年で策定しました。2027年度を最終年度とし、売上高1,350億円、営業利益目標200億円、EBITDA(減価償却前利益)320億円を目指します。売上を追求するのではなく収益率を指標に置くため、ROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)に目線を置いた経営を行っていきます。設備投資には800億円、研究開発費に150億円を投じ、たゆまず成長投資を継続します。
・ 環境関連については、政府の2050年カーボンオフセット目標に向けて、まずは2030年度までに2013年度比30%のCO2削減を目指しています。これに向けてエネルギー利用の改善、再生可能エネルギーの導入、廃棄ガラスの削減、当社製品を通じた環境貢献などに個別で取り組んでいます。さらに、サスティナビリティ推進委員会を代表取締役社長の下に設置し、日々、進捗を確認しています。
・ コーポレート・ガバナンスです。当社は指名委員会等設置会社として、取締役の半分以上が社外取締役で構成されています。社外取締役には経験豊富で多様なスキルを持つ方々が含まれており、株主目線で当社の経営を見守り、アドバイスを頂いています。企業統治体制としては、取締役会1回では議論が尽くせないため、事前報告会を必ず行い、業務内容を社外取締役にも十分に理解していただいた上で、取締役会で決議を行う体制を整えています。
・ 中期経営計画の達成に向けて、私が社員に向けて伝えたメッセージをご紹介します。スペシャルガラス関連は、過去に実行した投資の刈り取りを進めること。メディカル関連では、製品開発ロードマップをさらに加速させると共に、グローバル展開を強化することなどを掲げています。また、事業本部制を導入し、コーポレート2部門が一体となって新たな柱づくりに取り組むこと。財務の健全性を確保しながら、人材の確保・育成を加速し、中期経営計画中に起きる変化への機動的な打ち手を支えること。創業100年を迎えた当社の老朽化した建屋や設備を強靱化・更新し、安全を最優先に、「Big VISION 2030」を超える持続的な成長基盤を築いていくことを目指しています。
3.株主還元
・ 中期経営計画おける定量目標の中で、株主還元方針を定めました。当社は持続的な成長のために投資を行うとともに、株主に対する配当政策を経営の最重要課題と位置づけています。この考えに基づき、1株当たりの配当金を収益に関わらず最低55円配当することを発表しました。さらに、これまで「配当性向は30%を目安とする」としていましたが、今回は「定常収益に対する連結配当性向30%を基本方針とする」と明確に示しました。
・ これまでの配当実績と配当性向です。今回、配当額87円を11月の第2クォーター決算発表時にお知らせしました。当社は必ず55円を配当することを約束しているので、上期の配当は55円の半分に当たる27円50銭を中間配当として支払いました。残りの配当額は、期末の利益状況に基づき決定し、その3割を配当金とします。現在、合計で87円、下期は59円50銭の配当額を公表していますが、最終収益によって変動する可能性があります。
・ ご参考までに、当社の株価と日経平均の動きを紹介します。前回のトランプ政権時には、電子材料用途における中国市場のマーケットが大きかったため、中国向け市場の冷え込みの影響を受けて株価が下落しました。この4年間でサプライチェーンを大きく変更し、現在は中国向けの大きな商売は行っていません。また、コロナ禍で病院への出入りが制限され、メディカル事業の業績が一時的に低迷したため、日経平均に対してパフォーマンスが悪い時期がありましたが、2023年からは徐々に日経平均を上回るパフォーマンスを見せています。
4.最新の決算状況
・ 2025年2月に発表した第3四半期の決算ハイライトです。昨年と今年の3四半期累計を比較すると、今期の売上高は815億円で、135億円の増収となりました。営業利益は118億円で、昨年度の第3四半期の57億円に比べて倍以上に増加しました。それに伴い、EBITDA、経常利益、当期純利益も上昇しています。
・ 先期から今期の営業利益の増加要因について説明します。人件費、研究開発費、投資・償却費は昨年よりも増加しています。また、原料費も物価高の影響で昨年より多くかかっています。為替については、当社は輸出強化型のため、円安が収益にプラスに働き、昨年度より約9億円のプラスとなりました。さらに、スペシャルガラスと体外診断薬が顕著に伸びたこと、特にスペシャルガラスはAIサーバーやデータセンターの整備が進んだことが大きな要因となり、77億円増の大幅増を達成しました。
・ セグメント別の事業概況では、電子材料とメディカルは増収・増益となっています。複合材は増収でしたが、大型修繕などの影響で減益となりました。資材・ケミカルは若干増収しましたが、原材料コストの上昇により、収益は前年並みでした。断熱材は増収・増益となっています。全体として、会社は順調に成長しています。
・ 最新の通期業績の見通しは、2月に上方修正し、売上高は1,090億円(前年比157億円増)、営業利益は160億円(対前年比76億円増)を見込んでいます。EBITDAは240億円、経常利益は若干の円安を含んで170億円、当期純利益は115億円と予想しており、当社の過去最高の営業利益である111億円を大きく上回る見込みです。
5.質疑応答
Q1.電子材料事業でスペシャルガラスの大きな需要が期待されると説明がありました。スペシャルガラスの世界的なシェアについて教えてください。
A1.スペシャルガラスには2種類あります。伝送ロスを少なくするタイプと、データセンターなどの高熱環境での膨張や歪みを防止するタイプです。これらは全く異なるもので、それぞれ異なるプレーヤーが関与しています。伝送ロスを少なくするガラスには膨大な市場があり、当社だけでは賄いきれませんし、賄うつもりもありません。この分野では、常に新しいハイスペックのガラスが求められています。
現在、当社で最も大きな売上を持つのはNEガラスという伝送ロスが少ないガラスです。この分野には他社も多く参入しており、来年以降は台湾勢や中国勢がどんどん入ってくると思われますが、現在はまだ過半数のシェアを持っています。NEガラスの次世代として、Beyond 5Gや6Gの世界で使われるNERガラスがあります。具体的な数量を申し上げるのは尚早ですが、今後当社がほとんどのシェアを取っていく状況です。
低熱膨張ガラスは当社がほぼ独占しています。電気性能ではなく物理性能の世界であるため、全く異なる原料と製造方法が必要で、他社は追従しにくい分野です。この分野で当社が商売していることは世界的に知られており、多くの企業が挑戦していますが、今のところ完全に採用された例はありません。そのため、現在も当社がシェアを独占しています。
Q2.現在の中期経営計画で組織再編を実施したという話がありましたが、どのような思いがあったのでしょうか。
A2.カスタマー・ソリューションが最大のテーマです。これまで当社は製造業として、自分たちの作ったものを販売する「担ぎ売り」のような方法を取ってきました。しかし、現代はそれでは不十分です。新しい組成のスペシャルガラスも、顧客のニーズに応えて開発したカスタマーファーストの商品です。このような取り組みを電子材料以外の分野でも進めていきたいと考えています。
メディカル分野でも、新しい診断薬の開発において、これまでは製造と営業が一つの事業としてあり、開発は別の場所にありましたが、今後は開発担当者も顧客の生の声を直接聞くことで顧客ニーズを反映した開発ができるよう、製造・販売・開発が一体となった本部組織に変更しました。
Q3.株主還元の考え方について、あらためて教えてください。
A3.当社は依然として投資のフェーズにあります。今後も大きな設備投資を行う予定ですが、一方で株主様に対して刈り取った利益をしっかりと配分すべきであるとも考えています。電子材料の分野は非常にボラティリティーが高く、リセッション(景気後退)の局面が必ず来ることが予想されるため、収益が一時的に落ち込む可能性がありますが、そのような状況でも株主様に対しては55円の配当を必ず行いますし、AIデータセンターの分野が2027年、2030年に向けて成長すれば、経常的な利益の30%をしっかり配当し、株主様に「日東紡で良かった」と思っていただける会社でありたいと思っています。
Q4.長期ビジョン「Big VISION 2030」や中期経営計画の考え方において、M&Aや新たな拠点への進出などは検討されていますか。
A4.M&Aについては全く否定していませんが、当社の扱うニッチな分野に適した案件が少ないため、現時点では難しく将来的にも少ないだろうと感じています。ただし、良い案件があれば検討するつもりです。
拠点戦略については、当社の国内工場は現在、福島県、群馬県、栃木県など北関東・東北に集中しています。アメリカのメイン州、アイオワ州、カリフォルニア州に原料の製造工場があり、台湾には電子材料の拠点として工場が2カ所あります。当社が思い描くサプライチェーンは、これらの拠点で十分に完結しています。そのため、新たな拠点を増やすよりも、既存の拠点内で効率化を図り、歩留まりと製造効率を向上させることで、今中期経営計画および2030年に向けた目標を達成できると考えています。一方で、拠点内に新しい建屋を建てたり、設備を導入したりすることは予定していますが、全くのグリーンフィールドに大規模な工場を建設する予定は、国内外でも考えておりません。
以上
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