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株式会社ワコム(6727)

開催日:2024年3月16日(土)

説明者:代表取締役社長兼CEO 井出 信孝 氏

 

1.会社概要および事業内容

・ 社名の由来は「WA」と「COM」に分かれており、「WA」は日本語の和、HARMONYです。「COM」はもともとCOMPUTER、最近はCOMMUNICATION、COMMUNITYも加えて、人間とコンピューター、テクノロジー、コミュニティが調和を図りながら成長していくことを志向しています。1983(昭和58)年創業以来、デジタルで書く/描くことに取り組んでいます。

・ 主な事業セグメントは、当社ブランド名をつけた製品事業、OEMが中心のテクノロジーソリューション事業です。ブランド製品事業では、家電量販店内に製品コーナーがありますが、テクノロジーソリューション事業では、ブランドをつけていません。デジタルで書く/描く技術を他社システムに実装しています。例えば、SAMSUNG製スマートフォンのGalaxyシリーズ、Lenovo製パソコンにデジタルペンを提供しています。両事業ともハードウェアの開発と販売がメインですが、インク・ ディビジョン(部門)では、デジタルペンから出るデータを使ってソフトウェアサービスを提供しています。

・ ブランド製品事業の商品には、パソコンにつないで、アニメ、映画、ドラマのワークフローから趣味や写真修正で使用されている液晶に直接書く/描くペンタブレットと、板状のペンタブレットの2つがあります。液晶ペンタブレットはデザイン画や教育現場、さらには日本ではマイナンバーカード申請時に使用されることもあります。2024年に米「アカデミー賞」で視覚効果賞を受賞した山崎貴監督作品『ゴジラ-1.0』(2023年公開)でも当社の液晶ペンタブレットやペンタブレットが使用されています。全体シーンの背景の世界観が深く表現されていましたが、コンピューターグラフィックスを使いながら、デジタルでも描き込み、背景画を作り出す工程にも当社製品が貢献しています。

・ テクノロジーソリューション事業では、最近では大手の電子書籍端末にもペンを搭載しています。ペンの種類には万年筆風、ボールペン風もあります。握り心地が良いパイロット製「Dr. Grip(ドクターグリップ)」を、当社技術でデジタル化しています。

・ 両事業とも重要視していることは筆が走る体験です。どの道具を使っているかを意識せず一心不乱に書けてしまう体験を、お客様の手元に届けたいと考えています。

 

2.2024年3月期(41期)連結業績予想

・ 2024年1月31日付で発表した2024年3月期(41期)の連結業績予想は、売上高1,170億円(前年同期比4%増)、営業利益53億円(同163%増)です。テクノロジーソリューション事業は好調です。ブランド製品事業は苦戦していますが、両事業のバランスで総合的に着地しています。

・ ブランド製品事業は、売上高350億円(前年同期比15%減)、セグメント損失45億円(前年同期損失40億円)です。新型コロナウイルス感染症拡大期間(以下、コロナ期)に需要の先食いの形で非常に多くの取引がありましたが、現在、その影響を受けて苦戦しており、マーケット構造自体の変化も起きています。一方、コロナ期に部品が足りず、部品を多めに先買いしたり、在庫が積み上がったりしましたので、その処理部分にセグメント損失が発生しています。

・ テクノロジーソリューション事業は、売上高820億円(前年同期比15%増)、セグメント利益150億円(同39%増)で前期と比べても2桁成長をしています。差別化を図れる製品ラインナップに当社技術が使われることもあり、テクノロジーソリューション事業が伸びています。

・ 当社は技術カンパニーとしてしっかり投資を行っており、同じく2024年1月31日付で発表した2024年3月期(41期)の研究開発費予想は78億円です。資本的支出予想は24億円、減価償却費予想は18億円で、販売につながる製品の金型費に投資をしています。

・ 株主還元策として、配当と自己株式の取得を実施しています。2024年1月31日付で発表した2024年3月期(41期)の配当金予想は期末20円と前期から据え置きです。配当性向は、目安である30%から大きく上回る63%を予想していますが、安定的な配当金を提供するためプライオリティをおいて20円としています。

・ 中期経営方針「Wacom Chapter 3」で、総額200億円の自己株式取得を表明しました。2024年3月末日までに65億円を上限とする自己株式取得を実施する計画(※2024年3月15日付で取得終了)です。一方、自己株式を取得し市場に再放出する懸念を心配いただかないよう、自己株式消却も行っています。2024年1月31日時点で600万株を消却することを決議し、実施(※2024年2月14日付で消却完了)しています。

 

3.中期経営方針「Wacom Chapter 3」アップデートプランの改編について

・ 「Wacom Chapter 3」のビジョンは変わらずLife-long inkです。造語で、Ink(手書き/描き)をLife-long(一生の間)でという意味です。人間が一生の間に何かを書き/描きつけていく体験を、当社技術で一生の長い間、姿形を変えて支援することを、お客様、社会に対して約束する意味合いがあります。このコンセプトをもとに5つの戦略軸で事業運営をしています。

・ 戦略軸の1つ目は、Technology Leadership(テクノロジーリーダーシップ)の技術によって価値を提供することです。2つ目はCommunity Engagement(コミュニティ連携)で、1社ではお客様に十分な体験を提供できないので、お客様自身やパートナー達と組み、コミュニティのなかで新しい体験を作り上げ、お客様に意味ある体験を届ける、新しいコア技術を開発しています。3つ目はTech. Innovation for sustainable society(技術革新で持続可能社会に貢献)です。手書き/描き技術を40年磨き上げていますが、その技術と組み合わせることができる最新技術、AI等の技術を組み合わせて、お客様に新しい価値を提供しています。そして、ビジネスのためだけでなく、技術革新や持続可能な社会に連結していくことを意識しています。最後にMeaningful Growth(意味深い成長)では、経済的な成長を遂げながら、経済指標にとらわれない一人ひとりのお客様、社員、コミュニティ構成メンバーが、意味ある成長をそれぞれ模索する環境にできることを目指しています。

・ 戦略軸を財務面でみると、売上高は現在、1,000億円強がトップラインですが、次の中期経営方針の時間軸では1,500億円以上のラインをイメージしながら運営しています。ソフトウェア事業のうちデジタルインクデータと呼ばれるペンから出るデータサービスが、徐々に伸びることを想定しています。テクノロジーソリューション事業は過去最高益・最高売上を実現していますが、ブランド製品事業は苦戦に直面し改変プランを策定し実行中です。

・ ブランド製品事業に関しては粗利改善と市場構築、テクノロジーソリューション事業に関してはさらなる成長を目指して新しいビジネスモデルを立ち上げます。技術投資をしながら株主還元を行う資本政策と、ソフトウェア事業の新事業開拓を主眼に置くことなどを試みています。

・ 課題になっているブランド製品事業の苦戦の背景を示します。1つ目はコロナ期で発生した需要の先食い解消がもう少し先になるためです。当社ブランド製品事業のライフサイクルは長く壊れにくいため、結果的にお客様に長く使っていただけるということもあり、コロナ期に取引した需要の先食いがまだ解消していません。2つ目は買い控え傾向の継続です。特に中国市場は購買行動そのものが冷え込んでいます。3つ目は他カテゴリーへの需要シフト傾向があるためです。比較的安いエントリー系ペンタブレット等への影響が顕著な例です。Apple製のiPadとApple Pencilが浸透するなか、それらハードウェアでお絵描きを始めることが若干増えてきている点が課題です。同業他社は中国にもいますが、競争シェアでみるとマーケットシェアは変わらず、当社はシェアを維持しています。カテゴリーの外からiPadのApple pencil等、新しいところに需要が若干シフトしていることを課題と認識し、対策を繰り出す必要があります。

・ 対策として構造改革を実施しています。商品ポートフォリオそのものを見直し、シンプルにしたり、他社製品に対抗し得る新しい製品の発想・創造を早めました。一方、販路でもお客様が全世界にいるため裾広がりになっていました。自社ストアとB2Bにフォーカスし、機軸をもちながら販路を整理し、それに基づき組織の最適化を行うことで構造改革を深耕しています。

・ 事業の運営体制では、スピーディーな意思決定に基づいた運営改革をしています。事業部に任せるというよりも、CEOとCFO直下にTask Forceチームを組成し、構造改革のプランニングと執行をハンドルし、取締役会に直接報告しています。意思疎通を効率的なコミュニケーションで行っています。取締役会も次の中期経営方針でアップデートを図り、株主総会時に具体的な案として付議したいと考えています。

・ 2022年12月末に290億円強あった在庫を100億円程度削減することを目標にしていました。2024年3月現在、この目標は達成できる見込みです。

 

4.2024年3月期「Wacom Chapter 3」アップデートの各種取組 進捗を示す事例

・ SAMSUNG製「Galaxy S24 Ultra」の最新スマートフォンのSペンに、テクノロジーソリューション事業から当社技術を提供しています。SAMSUNGと当社は10年以上、コラボレーションをしています。SAMSUNG製商品はAIに力を入れており、AIを使った新しい体験にペンを使えます。例えば写真にペンで丸を描いて測定すると、丸を描いた部分が何であるかを自動検索できるAI検索機能を搭載しています。

・ ブランド製品事業の「Wacom One」シリーズでは、新製品を導入しています。お求めやすい価格設定で、趣味や教育に使える商品です。

・ ハードウェアの商品だけでなく、「Wacomアドベンチャー」と称して、商品を購入したらそれで終わりではなく、当社商品を使い続けるかぎり様々なサービスを提供する体制を導入しています。漫画の描き方、イラストレーションを描くコミュニティ紹介、自身だけのペンにカスタマイズすること等、様々なワクワクする企画を「Wacom アドベンチャー」で提供し、サービス提供型のビジネスにも踏み出しています。

・ テクノロジーリーダーシップを体現する事例に、液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro」シリーズがあります。プロ中のプロが使う商品です。アニメーションスタジオや工業デザインのワークフローのなかで使われます。プロの方が描くと、これは違うと言っていただける描き心地、性能、体験の差別化ができるプロモデルがしっかり導入されている事例です。

・ 「Wacom Bridge」では、手描き技術だけでなく新しいコア技術として開発しています。これはクラウド環境でペンを使うときのソフトウェアのソリューションです。デザイナーが集ってクラウド環境でコラボレーションすることが増えています。クラウドの先に中心となるクラウドコンピューターがあり、各個人の手元にはクラウドにつながった端末があります。これまではクラウド環境のなかでクラウドコンピューターがアプリケーション等を動かすことで、ペンを使ったときに環境上の制約で遅延が発生したり、フル機能が使えなくなったりといった困りごとがありました。「Wacom Bridge」を通して環境制約条件や困りごとを解決し、お客様に届けはじめています。

・ これら事例のように、ハードウェアだけではなくクラウド上にインストールするソフトウェアソリューションもあります。1台の売り切りではなくソフトウェアソリューションを使うデザイナーやクリエイター一人ひとりに対価をチャージするサブスクリプション方式のビジネスモデルも始めています。

・ 韓国発信のスマートフォンで楽しめる縦読みマンガ『Webtoon』が広まっています。コミュニティ事例として、韓国KENAZ社と組み、日本で縦読みマンガ作家を育成するプログラムを行っています。

・ 専門学校やデザインスクール等に専門機器として液晶ペンタブレット等を導入している事例は多くあります。病院でも患者と病院の間での同意書サイン等にも使われています。

・ 5つの戦略軸で示した新しいコア技術の開発がどのように進捗しているのかを示します。ペンの先からデータが出てくるデジタルインクは、株式会社Z会と組んだサービスで、2024年春夏に導入予定です。勉強していてわからない言葉を右上に書くと、辞書的に示すだけでなく、その言葉や教科にまつわる様々な視点の知識が体系的につながる形で見ることができる、自発的な学びを触発するようなサービスを構築しています。

・ 2023年から、学んでいる量、筆跡量を距離として示すサービスを展開しています。一生懸命書いているのに成績が上がらない生徒に対し、筆跡量を距離に直すと何キロメートルも歩いていることになることを示して励ましたり、それを旅行に例えて途中で出会った歴史的建造物を紹介したり、筆を止めずに頑張ることを進めています。

・ 「KISEKI ART」では、創作の軌跡を可視化しています。イラストレーターが作品を作る際の6万〜7万本の筆跡データを、作品の背後にあるものと捉えて可視化するサービスです。筆圧や画面のどこを使っているか、色使いや加速度等、特徴を捉えて可視化しています。

・ 作家の特徴を解析系AIで抽出、3Dに可視化した指紋ならぬ「絵紋」もあります。描いているなかで、解析系AIの深層学習アルゴリズムをWacomとAIの会社で共同開発し、筆使いの特徴を抽出し3Dに表現しています。解析系AIを使って創作の奥深さを可視化することができます。

・ デジタルインクを使ってクリエイターの権利を守るサービスも始めています。イラストの背後に人間の目には見えない透かし絵を生成し、透かし絵がブロックチェーンにつながって作家が描いたことを証明するサービスです。

 

5.ESGへの最新の取組事例

・ CDP(カーボン・ ディスクロージャー・ プロジェクト)により、気候変動評価は前年度より1段落アップしたBを獲得しています。また、統合報告書の要素を取り入れて、それぞれの事例を語った「Wacom Story Book(ワコム ストーリー ブック)」も昨年に発行しています。

 

6.質疑応答

Q1. 先日、米「アカデミー賞」で宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞、『ゴジラ-1.0』も視覚効果賞を受賞し、ニュースになっていましたが、ゴジラといった複雑な最新コンピューター映像でもワコムの製品を使った手描きの必要な作業があるのでしょうか。

A1. 栄えあるアカデミー賞を両作品が受賞されました。そして、両作品とも当社の技術や商品が使われています。例えば『ゴジラ-1.0』では、ゴジラのデザインを作っていく映画の制作ワークフローで、制作前段階のデザイン画やストーリーボード、絵コンテ等に液晶ペンタブレットが多く使われています。同じく制作でも、例えば最近はコンピューターグラフィックスで背景を作っていくことが非常に多いですが、ゴジラは背景をCGと手描きのミックスで作っており、背景を綿密にすることで世界観を表し深い背景を作っていきます。そこに当社の液晶ペンタブレットが使われています。同時に作品のなかで3Dデータを扱いますが、3Dデータを操作し編集するときは画面を見ながら3Dを動かしていく作業も多く、その場合は板状のペンタブレットが使われます。クリエイターの方が画面に集中して手元を見ずに板状のペンタブレットのペンで3Dオブジェクトを動かしていく作業も、この作品にかぎらず映画やアニメ、様々な動画作品で当社商品が使われている事例になります。

 

Q2. ワコムのデジタルインクとセキュリティの新サービスに期待していますが、いつごろ実用化されるのでしょうか。日本アニメのコンテンツは宝の山だと思うのですが、生成AIに取り込まれたり、海外で無断利用されたりと早晩衰退するのではと危惧しています。

A2. セキュリティとデジタルインクを組み合わせたサービス「Wacom Yuify」を立ち上げようとしています。「Yui」は日本語からきていて、“結っていく”意味です。作家、クリエイターが自分の手で作りだした作品にデータがしっかり結ばれていくことを証明するサービスにしたいという意図で「Wacom Yuify」という名前をつけています。この技術自体はかなり完成に近づいています。実際、アメリカ・ラスベガスの「CESショー」でベータ版の発表を行っています。お客様が実際使える状態になったので、小規模ですがお客様に使っていただきながらフィードバックを頂戴し、商用化に向かって最終の磨き上げを行っていく状態にあります。ご質問いただきましたとおり、これから生成AIは増えていくと思います。生成AIがクリエイター、作家、アーティスト、もしくは学んでいる人を助けることもあると思います。効率化を図る意味で、人間が行っているきつい作業を代替していくこともあると思いますが、やはり助ける一方で人間が自分の手で作ることを生成AIが代替してしまうことについての議論も多く、当社はそこに着目していきたいと考えています。生成AI賛成、反対ではなく、どういう時代が来ても、人間が自分の手で書く/描くという価値と深さを技術で可視化、証明することで、「Wacom Yuify」をいち早く商用化できるように開発を加速させていきたいと考えています。

 

Q3. 最近のAmazonでは手頃なワコム以外のペンタブレット、液晶ペンタブレットの露出が多いように思います。シェア低下がブランド製品の赤字の原因でしょうか。赤字解消は可能でしょうか。

A3. 中国企業のコンペティターが、価格を抑えて、ロープライスのポジションで市場展開していますが、実はマーケットシェアでは、そこまで変わっていません。コンペティターが出てきたときにエントリーゾーンが食われ気味という傾向がありましたが、シェア構造はだいたいエントリー市場の当社が6割強で、そこの構成に変化はありません。当社は価格よりも体験の価値や体験の本質的な意味深さを差別化して、お客様に書く/描く体験をご提供したいと思っております。しかし、セグメント利益が赤字はよくありませんので、こちらを見据えて赤字を解消する構造改革を行っていく必要があります。一方、世の中に数多くあるAndroidタブレットではなく、新しいカテゴリーを創出して書く/描くという体験をご提供していきます。マーケット状況も厳しいことは間違いありませんので、厳しい環境下でも黒字化できる体制に最適化を図っていくことを進めてまいります。

 

以上

 

 

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